微生物農薬の製剤化
微生物は農業全体において有益となる可能性があります。おそらく最もよく知られているのは生物農薬で、害虫の防除(生物殺虫剤)や病原菌の防除(生物殺菌剤)に役立っています。その他の重要なグループとしては、植物と共生関係を築くことでその生物に栄養を与える生物肥料や、栄養効率、非生物的ストレスおよび作物の品質を高めるバイオスティミュラントが挙げられます。この他にも、微生物が環境に重大な影響を及ぼす場合があり、例えば窒素固定能や炭素隔離能を持つ微生物は、温室効果ガスの削減に役立ちます。
しかし、微生物単独では、標的が土壌であろうと葉面であろうと、その標的に到達する前に生存能力を失ってしまうため、農業に有効ではありません。微生物農薬の製剤化とは、使用対象に送達されるまで微生物の生存能力を維持できるような適切な送達システムを提供することです。
ここでは、微生物農薬(または生物防除剤)の製剤化の方法についてのアドバイスを、製剤化に先立ち検討する必要があることやお勧めの製品を含めてお伝えします。
微生物農薬(または生物的防除剤)の製剤化の方法
微生物農薬の製剤化では、最終製品の安定性に始まって、微生物の生存能力の維持に至るまで、さまざまな困難が生じます。製剤開発の開始に先立ち、まず以下のような因子を検討することが必要です。
- どの程度の使用期限が必要か
- 最終製剤は液体と固体のどちらが良いか
- 標的とする対象物(土壌か葉面か)
- どのように使用するか(種子処理か散布か)
- 微生物を外的要因(UV光など)から保護する必要があるか
製剤の剤型を選定する
微生物に応じた適切な送達システムの選定が不可欠ですので、製剤化を成功させるためには微生物を理解することが重要です。微生物の形態構造は高度に疎水性で、水で希釈しても効果がなく不均一に分散してしまうため、農地での使用には問題が生じます。また、水の存在によって休眠胞子の生育開始が促されるため、散布時点での有効成分の生存率が低下します。
水を含まないシステムであれば、保管中に微生物にとってほぼ不活性な環境を作り出すことができます。したがって、微生物を配合する場合の剤型としては、油分散体(OD)または粉剤(WP)が最も適しています。
油性懸濁剤(OD剤)の微生物製剤
油性懸濁剤(OD剤)の製剤化技術では、微生物を油相に分散させます。利点は、液状製剤のため使用が容易で、水を含まないため保管中の胞子発芽の問題を抑えることができ、微生物に有害となり得る保存剤が不要であることです。配合成分がビルトイン型アジュバントとして作用し、透過性の亢進と散布時の残留率向上が得られます。難点もいくつかあり、沈降が生じてしまい、安定化させるため複数の界面活性剤が必要になるため、微生物の生存能力に影響が生じる可能性があります。
油性懸濁剤(OD剤)として製剤化する場合の重要な注意点:
微生物の生存能力に影響しない油剤を選定します
- 補助剤は、微生物の生存能力に影響が生じないよう、水を含まないか、または水分含量が非常に低いものを選びます
- 分散剤は、微生物を妨げることなく効果的に基質に固定されるものを選びます
- 製剤の処理方法を検討する必要があります
- 乳化剤及びレオロジー改質剤は油剤に依存します-特定の油剤に適した界面活性剤とレオロジー調整剤の比率が同定されている、Crodaの油性懸濁剤(OD剤)用の製品をご利用ください
Developing microbial oil dispersion (OD) formulations
油性懸濁剤(OD)の開発効率を高める
当社は、開発プロセスを促進するため、さまざまな微生物に固有の要件を捉えて選定され、幅広い油剤を用いた微生物送達に使用可能な、4種類の懸濁ベース系を設計しています。これらのベースは微生物を用いた開発における優れた出発点であり、初期適合性試験の完了後にさらに最適化を図ることが可能です。
これらの油性懸濁剤(OD)のベース処方の主な利点は、製剤の開発期間が著しく短縮され、たとえ製剤化の経験が限定的であっても使用できるという点です。これには以下のような理由があります。
- 一般的な微生物との初期適合性試験は確実性がありません
- 各油剤について選択すべき界面活性剤と比率がすでに同定されています
- 製剤化の方法と共に最良事例に関するアドバイスをご提供します
水和剤(WP剤)の微生物製剤
水和剤(WP剤)は、散布前に水と混合することで懸濁液となる粉末製剤です。固体状なので生産がシンプルで、保管中の沈降の問題がありません。水を含まない環境のため保管中の胞子発芽の問題を抑えることができ、製剤化を試みている微生物に対して有害となり得る保存剤は不要です。粉末製剤のため、吸入の危険性やエンドユーザーの取り扱いにおける制約があります。
水和剤(WP剤)として製剤化する場合の重要な注意点:
- 界面活性剤は、良好な湿潤性および懸濁性を得るため、微生物の高度な疎水性に打ち勝つ必要があります
- 補助剤は固体状のものを使用します
微生物を用いた種子処理
製剤が微生物の生存能力に影響する評価方法
開発全体を通じて、個々の成分や製剤全体が微生物に適合するか否かを理解するため、初期適合性試験の実施をお勧めします。製剤が微生物の生存能力にどのように影響するかを評価する方法はいくつかあります。当社が使用している業界標準の評価方法の例をいくつか挙げておきます。
阻止円(Kirby – Bauer法)
微生物とさまざまな補助剤または製剤全体との適合性を評価します
コロニー形成単位(CFU)の測定
補助剤の存在下で微生物を基質に塗布した場合のコロニーを形成する能力(または強度)を評価します。
分生子発芽試験(CGT直接法による生存率測定)
真菌の分生子の発芽能力や、原料、不活性物質、農薬などの化学成分が真菌の生存能力にどのように影響する可能性があるかについての評価に用いられます。
分生子の活力測定
当社の研究室で開発された最新の方法で、微生物が発芽する速度を測定します。一部の製品は特に分生子の活力に影響し、農地で使用した場合に真菌の性能に影響する場合があります。当社のPrecisionBio™ソフトウェアは、光学顕微鏡の観察像から分生子の活力の経時変化を評価します。これにより、各製剤(または成分そのもの)がそれぞれ経時的に分生子の活力に対してどう影響する可能性があるかを解析できます。したがってこの方法では、配合成分が微生物にどう影響する可能性があるかをさらに深く理解することができます。
これは、阻止円法を用いて、Crodaのいくつかの製品とバシラス属、トリコデルマ属およびシュードモナス属の微生物との初期適合性を試験した例です。
こちらの製品をお勧めします
使用する微生物のことを理解して、知ることが重要です。役立つ注意事項をいくつか挙げておきます。
- 同じ種でも菌株が異なれば、補助剤との適合性は異なる結果となる場合があります
- 同じ菌株でも、環境条件が異なれば、性能が異なる結果となる場合があります
- 目標によっては、1つの菌株が別の菌株よりよい性能を示す場合があります
- 各菌株にはそれぞれの特異性があります
したがって、一般的な製品をお勧めするのは難しいということになります。油性懸濁剤(OD剤)の開発における出発点として、微生物製剤化のための油性懸濁剤(OD剤)ベースに関するデータシートをダウンロードして、お勧めの製品をご覧ください。また、当社との連携により使用する微生物に合わせたアドバイスをご提供できますので、ぜひ当社にご連絡ください。