レオロジー改質剤
レオロジー改質剤とは
農薬製剤において有効成分を安定させ、懸濁状態を維持することは必ずしも簡単ではありません。安定化が不十分な製剤は、凝集や合一などの劣化現象を起こしやすくなります。本サイトの「高分子界面活性剤」のページでは、分散剤と乳化剤が製剤の安定化に果たす役割を解説しています。それらは粒子間の分離を保ち、製剤の劣化を防ぎます。
ほかにも、安定化について考慮しなくてはならないことがあります。粘度、すなわち製剤のねばりの度合です。製剤は粘度が増すほど安定し、沈降やクリーム化が起きにくくなります。粘度はレオロジー改質剤を加えることによって調節できます。
レオロジー改質剤は増粘剤、粘度調整剤などとも呼ばれますが、単に製剤の粘度を高めるだけではありません。優秀なレオロジー改質剤は製剤の構造を維持しますが、力が加わると製剤は流動性を増し、注ぎやすくなります。
例として、トマトケチャップは濃厚で容器から出しにくいものですが、容器を振ると(力を加えると)粘度が弱まり、自然に流れ出るようになります。このように、レオロジー改質剤は移動中や保存中の沈降を防ぐだけでなく、必要に応じて滴下したり、ポンプで吸い出したりする使い方も可能にしているのです。
当社のレオロジー改質剤の製品レンジは製品の構造をしっかりと保ち、粘度を適宜コントロールするように設計されています。Atlox Rheostrux™シリーズには使いやすく、良好な安定性とレオロジープロファイル、懸濁性を提供する水系/非水系用の製品が揃っています。
Crop care product brochure
水系レオロジー改質剤
キサンタンガムは現在最も広く使われている水系用の増粘剤です。使用前には予備混合が必要なことが多く、それには製剤の水相を用いる必要があることから、スケールアップ生産時には予備混合用の製剤を保管する専用の容器を設けなくてはなりません。天然糖であるキサンタンガムはカビ類や細菌類の栄養源にもなるので、製剤には防腐剤を配合します。そのため経費と追加の薬事手続きが発生します。
当社はキサンタンガムに代わるものとして、水系用のレオロジー改質剤、Atlox Rheostrux™ 300Aを開発しました。Atlox Rheostrux 300Aは液体分散ポリマーであり、水に加えると瞬時に膨潤を始めてポリマーマトリクスを形成します。ポリマー鎖の架橋や絡み合いにより、製剤の構造は安定します。
主な利点は、簡単な使い方で安定性と懸濁性を維持・改善できることです。事前の膨潤は不要で、単に製剤に入れてかき混ぜるだけです。強酸性条件下(pH 2.5)でも優れた性能を示すため、メソトリオンなど一部の有効成分の効果を増強する目的で、好んで使われるようになっています。酸性条件下で製剤の構造を保つことは業界の困難な課題の1つであり、標準的なレオロジー改質剤であるキサンタンガムは、低pHでは機能できません。
非水系レオロジー改質剤
油性懸濁剤(OD)は農薬業界において急速に、加水分解に不安定な有効成分の製剤化に欠かせないものになりつつあります。ただし、ODは有効成分の濃度が高いため、構造の維持が困難なことでも知られています。製剤はしばしば許容しがたいほどに粘度が高く、しかも沈降も起こり得ます。Atlox Rheostrux 100および200は非水系用のレオロジー改質剤です。注ぎやすく、かつ安定したODの処方を容易に行えるようにすることで、問題を解決します。
Atlox Rheostrux 100と200はきわめてよく似た、水素結合による三次元構造を有しています。この構造内に疎水ポケットを設けることで油相を集め、分子レベルでの相互作用によってネットワークを強化できます。
OD用の最も一般的なレオロジー改質剤の1つに、有機修飾クレイがあります。クレイ自体はコロイド構造を有しており、無数の超顕微鏡的プレートレット(小板)が層状に並んでいます。まず強く凝集しているそれらの粒子を湿らせ、高せん断混合法により、せん断力を加えて分離する必要があります。アルコールなどの賦活剤をクレイの層の間に浸透させると、層構造が緩んで処理しやすくなります。分離したプレートレットは、頂点が別のプレートレットの面につながる「カードハウス」構造と呼ばれる立体構造を形成します。
私たちはAtlox Rheostruxシリーズの開発にあたり、ベントナイトクレイを用いた処方の性能比較を実施しました。いずれのAtlox Rheostrux製品も、クレイを用いた処方に比べて静止粘度が高く、保存安定性と懸濁性に優れています。 また、Atlox Rheostruxを含有する製剤はせん断によって粘度が早く低下し、粉砕/処理がしやすくなります。